産業保健師と聞いて、どんな仕事を思い浮かべますか？
- 「看護師の仕事はイメージできるけれど、産業保健師は何をする人？」
- 「どんなやりがいや魅力があるの？」
そんな疑問を持つ方も少なくありません。
それもそのはず。看護学生の段階で「産業保健」を学ぶ機会は限られており、授業や実習で実際に触れることはほとんどないのが現状です。そのため、「どんな職場で、どんな1日を過ごしているのか」「看護師と何が違うのか」がイメージしづらい職種でもあります。
以下では、私の経験から産業保健師の1日の仕事の流れや具体的な仕事内容、給与（年収）の目安、さらに実際に働いて感じたやりがいと魅力について詳しく紹介します。
→ ハローワーク看護師求人で「産業保健師」の求人を探す
→ ハローワーク看護師求人で「産業看護師」の求人を探す
目次
産業保健師とは？仕事内容・違い・年収
産業保健師とは、産業の場で働く労働者を対象に、健康維持や健康増進をサポートする保健師のことです（労働者の配偶者を含む場合もあり）。病気を抱える患者さんを対象とする臨床看護とは異なり、基本的には健康に働いている人を支援するのが特徴です。
そのため、治療や診療の補助ではなく、健康管理や予防を中心とした活動が業務の中心となります。
産業保健師の一般的な仕事内容
産業保健師の主な役割は、企業で働く従業員の健康を守り、安心して働ける環境を整えることです。医療機関のように治療を行うのではなく、「健康管理」「予防」「職場環境の改善」を軸に幅広い業務を担当します。
一般的な産業保健師の仕事内容には、次のようなものがあります。
- 健康診断に関する業務
健診機関との調整、対象者の抽出、受診案内、健康相談、健康診断後のフォロー、保健指導などを行います。
従業員一人ひとりの健康データを管理し、生活習慣の改善や疾病予防をサポートするのも大切な役割です。 - 過重労働者対応
長時間労働者や残業が多い社員の健康状態を確認し、必要に応じて産業医との面談を調整します。
保健師が面談に同席し、職場や本人の状況をふまえた生活・勤務改善の支援を行うこともあります。 - メンタルヘルス対応
ストレスチェックの実施・結果分析、定期的なフォロー面談、復職支援などを行います。
メンタル不調を早期に察知し、産業医・上司・人事部門と連携して職場復帰をサポートするのも重要な業務です。 - 安全衛生委員会への参加
月1回程度の安全衛生委員会に出席し、健康管理・職場環境・メンタルヘルスなどに関する報告や改善提案を行います。
従業員の声を反映し、職場の安全文化を育てる役割も担います。 - 職場巡視
定期的に職場を巡回し、作業環境や職員の健康状態を観察します。
換気・照明・騒音・温度などの環境面をチェックし、必要に応じて改善を促すなど、**職場の“見える健康管理”**を実践します。 - 健康施策の企画・運営
生活習慣病予防セミナー、メンタルヘルス研修、禁煙キャンペーン、ウォーキングイベントなど、
従業員の健康意識を高める社内イベントの企画・運営を行います。
従業員が楽しみながら健康増進に取り組めるよう工夫するのも、産業保健師の腕の見せどころです。 - 休養者への対応
病気やケガ、メンタル不調などで休職している従業員に対し、定期的に連絡や面談を行います。
復職支援プログラムを設計し、無理なく職場に戻れるよう調整します。
また、企業によっては保健室内に診療所を併設している場合もあります。その際には、採血・心電図・バイタル測定などの基本的な検査対応のほか、診療受付やレセプト入力といった事務業務を担当することもあります。
医療機関と企業の中間的な立場で、健康管理と事務処理の両面をバランスよくこなす力が求められます。
産業保健師の体験談
また、対象者との関わり方も医療現場とは大きく異なります。病院では患者さんと直接対面して関わるのが基本でしたが、企業では職員との面談以外は、メールでのやりとりが中心です。最初はその違いに戸惑いもありましたが、次第に効率の良さや、言葉を丁寧に選ぶ大切さを学び、今ではむしろメリットを感じています。
コロナ禍以降はオンライン面談も増え、ZoomやTeamsを使った面談にも対応できるようになりました。自宅や別拠点の社員ともスムーズにコミュニケーションを取れるため、働き方の幅が大きく広がったと思います。また、業務の合間にチャットで上司や同僚へ気軽に確認できるのも、企業ならではの便利さだと感じています。
医療現場とはまったく異なる働き方に最初は不安もありましたが、今ではスキルの幅が広がり、自分自身の成長につながっていると実感しています。看護師としての経験を活かしながら、新しい形で「人の健康を支える」仕事ができる点が、産業保健師の大きな魅力だと感じています。
行政保健師と産業保健師との違いと特徴
「保健師」と呼ばれる職種には、働く場所や対象によっていくつかの種類があります。代表的なのが行政保健師と産業保健師です。
行政保健師と産業保健師どちらも「人々の健康を支える」点では共通していますが、対象や目的、働き方には大きな違いがあります。以下の表に、両者の特徴をまとめました。
| 比較項目 | 行政保健師 | 産業保健師 |
|---|---|---|
| 勤務先 | 市区町村・保健所などの行政機関 | 企業・事業所（健康管理室・人事部門など） |
| 対象者 | 地域に住む住民（乳幼児〜高齢者まで） | 企業で働く従業員（配偶者を含む場合も） |
| 主な目的 | 住民全体の健康増進・疾病予防 | 働く人の健康維持・労働環境の改善 |
| 主な活動内容 | 健診・予防接種・育児相談・介護支援・地域イベント | 健康診断後フォロー・過重労働者対応・メンタルヘルス支援・職場巡視 |
| 関わり方 | 直接的な住民対応（訪問・窓口・健診会場など） | 社員との面談・メール・オンライン面談など |
| 関係機関との連携 | 医療機関・福祉施設・教育機関など | 産業医・人事部・上司・労務管理部門など |
| 仕事の特徴 | 地域包括的で幅広い世代の健康支援 | 職場の安全衛生と個々の健康管理を両立させる役割 |
| 求められるスキル | コミュニケーション力・地域理解・行政対応力 | 医学的知識・労務理解・調整力・パソコンスキル |
行政保健師は、地域の乳幼児から高齢者までを対象に、「住民の健康を守る」活動を行います。たとえば、乳幼児健診（3か月健診・1歳半健診など）での発達確認や、離乳食・歯・ワクチンに関するセミナー開催、育児相談への対応などが代表的です。また、高齢者に対しては、筋力低下や認知症を予防するイベントの企画、介護に関する相談対応など、地域の健康づくり全体を支えます。
一方で産業保健師は、企業で働く人の健康管理と職場環境の改善を中心に活動します。例えば、健康診断で血圧が高い人に対しては、長時間労働や生活習慣を確認し、必要に応じて上司と相談しながら業務調整を依頼することもあります。また、血糖値が高く定期受診ができていない人に対しては、勤務時間内に通院できるよう調整を行うことも。さらに、休養室を頻繁に利用する職員が「食欲不振」「睡眠不良」などを訴える場合には、メンタルクリニックの受診を勧め、復職や業務軽減を産業医とともに検討します。
このように、産業保健師は心と体の両面をサポートしながら、職場と本人の間に立って調整を行うのが特徴です。医療知識と企業理解を両立させ、働く人が安心して仕事を続けられる環境を整える。それが産業保健師の専門性であり、大きなやりがいにつながっています。
産業保健師の体験談
また、医療職としては、職員の体調面だけでなく、食事・運動・睡眠など生活習慣全体のバランスを見極める力も求められます。加えて、業務量や仕事の質、人間関係、残業時間など、「働き方」そのものが健康に与える影響を考慮することも重要です。こうした視点を持つことで、職員一人ひとりの全体像を多角的に捉えられるようになりました。
そのうえで、「どうすれば健康を損なうことなく長く働き続けられるか」という観点から支援できることに、産業保健師としてのやりがいと面白さを強く感じています。単に不調を見つけて助言するだけでなく、「働き方そのものを整える支援」ができる点に、この仕事の奥深さを感じます。
産業保健師の私の給料・年収・目安
産業保健師として働くようになってから、看護師時代との給与の違いに驚く方も少なくありません。一般的に、産業保健師の年収は医療現場で働く看護師よりもやや控えめですが、安定した勤務体制や休日、充実した福利厚生を考慮すると、トータルでは非常にバランスの取れた働き方といえます。
「給与の高さよりも、長く安心して働ける環境を選びたい」そんな方にとって、産業保健師はとても魅力的な選択肢です。ここでは、企業で働く産業保健師の年収の目安や給与体系の実情、そして働きやすさとのバランスについて詳しく紹介します。
年収の相場と給料の実態
私の産業保健師の平均年収はおおよそ500万円前後です。これは、正社員として企業に勤務した場合の一般的な目安で、企業の規模や業種、経験年数によって前後します。
2025年に発表された「厚生労働省 令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況」では、保健師の保健師の平均年収は5,212,400円、月々の平均給与は351,100円、年間の平均賞与は999,200円です。そのため、私が産業保健師としていただいていた給料は一般的な平均であることが分かります。
| 平均年収 | 5,212,400円（年） |
|---|---|
| 月々の平均給与 | 351,100円（月） |
| 年間の平均賞与 | 999,200円（年） |
多くの産業保健師の場合、夜勤手当や危険手当がない分、医療機関で夜勤をしていた頃よりも年収はやや下がる傾向があります。一方で、企業によっては賞与（ボーナス）が年2回支給されたり、勤続年数に応じて昇給したりと、安定的に収入を得られる環境が整っています。
給料が下がる理由とその背景
産業保健師は企業の人事部門や総務部門に所属するケースが多く、医療職というより「企業職員」としての給与体系が適用されます。このため、夜勤や休日出勤などがない代わりに、病院勤務時代のような特別手当が付かないのが一般的です。
ただし、診療所を併設している企業で採血や心電図などの検査を行う場合には、医療職としての手当が支給されることもあります。
働きやすさ・福利厚生の魅力
給与額だけでなく、「働きやすさ」や「生活の安定」も産業保健師の大きな魅力です。
多くの企業で週5日勤務・土日祝休みが基本となっており、フレックスタイム制や時差出勤、在宅勤務制度を取り入れているところもあります。夜勤がなく、有給休暇を取得しやすい環境が整っているため、ワークライフバランスを重視したい人に向いている働き方です。
産業保健師の体験談
確かに、転職当初は看護師時代よりも給料が下がったことに少しがっかりしました。それでも、自分らしく過ごす時間は収入に劣らないほど価値があると感じるようになりました。
産業保健師に転職してからは、家族や友人とゆっくり過ごす時間を大切にできるようになり、「先の予定を楽しみにしながら働ける毎日も悪くないな」と思えるようになりました。仕事とプライベートの両立がしやすいことこそ、産業保健師の大きな魅力だと感じています。
産業保健師になって感じたメリットとデメリット
産業保健師として働くと、医療機関とは異なる環境で多くの気づきがあります。ここでは、実際に私が働いて感じたメリットとデメリットを、知識・スキル面と働き方・環境面の両方から紹介します。転職を検討している方は、どちらの側面も理解したうえで判断することが大切です。
知識・スキル面のメリット
産業保健師として働くことで、健康支援の幅が大きく広がります。
日々の業務を通して、以下のようなスキルアップや知識の蓄積が得られます。
- 健康維持や疾病予防に関する知識が深まる
- 労働安全衛生法や労働基準法など、企業で必要な法律知識が身につく
- 健康診断の重要性や定期受診の難しさを理解できる
- メンタル不調を抱える人への関わり方を学べる
- セミナーやイベントの開催など、集団教育に携われる機会がある
- 長時間労働や職場の人間関係など、社会の現実を多面的に理解できる
看護師として医療行為を行うだけでなく、「働く人を支える保健師」として社会の仕組みを学べる点は、非常に大きなメリットです。
働き方・環境面のメリット
働き方という面では、産業保健師は看護師職の中でもトップクラスの働きやすさがあります。
- 休暇を取りやすく、有給消化率が高い職場が多い
- 夜勤がなく、生活リズムが安定する
- 自分のペースで仕事を進めやすい
- パソコンスキルやビジネスマナーが自然と身につく
業務の進め方や時間の使い方を自分でコントロールできるため、仕事とプライベートの両立がしやすいのも大きな魅力です。
知識・スキル面のデメリット
一方で、産業保健師ならではの難しさもあります。
- 採血や注射など、看護技術にブランクができやすい
- 医療現場のように「ありがとう」と感謝される機会が少ない
- 自覚症状のない職員が多く、医療的な言葉が響きにくい
- 産業保健業務と事務職の境界が曖昧で、本来の専門外業務を任されることもある
医療現場のような“やりがいの見えやすさ”とは異なり、地道なサポート業務が中心になる点を理解しておくと良いでしょう。
働き方・環境面のデメリット
一方で、働き方の面にも注意すべき点があります。
- 給料が下がる傾向があり、夜勤手当などがなくなる
- 医療職としての自覚が薄れ、事務職員としての意識が強くなる
人によっては、「看護師らしい実感が持ちにくい」と感じることもあるでしょう。しかし、医療従事者としての視点を企業に生かせる貴重なポジションであることに変わりはありません。
メリット・デメリットを理解したうえで
産業保健師は、健康面だけでなく、働き方や職場環境の改善にも関われる専門職です。現場での看護とは異なるやりがいがあり、社会人全体の健康づくりに貢献できる仕事といえます。
もし、「自分のペースで働きながら、学びを広げたい」「仕事の裁量や生活の充実も大切にしたい」と感じている方には、産業保健師は間違いなく検討する価値のある選択肢です。
産業保健師に求められるスキルと向いている人の特徴
産業保健師として働くうえで大切なのは、医療知識だけではありません。企業という環境でさまざまな立場の人と関わるため、人間関係の構築力や柔軟な対応力、業務を効率的に進めるスキルが求められます。ここでは、産業保健師として特に重要とされる3つのスキルと、向いている人の特徴を私の経験から紹介します。
コミュニケーション能力とビジネスマナー
産業保健師にもっとも求められるのは、コミュニケーション能力です。病院での看護とは異なり、企業では「職員」「上司」「人事」「産業医」など多様な関係者と関わります。そのため、相手の立場や背景を理解しながら話を聞く姿勢が欠かせません。
企業では、医療職というより組織の一員として信頼を得ることが重要です。挨拶や報告の仕方、メールでのやり取りなど、社会人としてのビジネスマナーを身につけることも評価につながります。
また、職員の中には性格も働き方もさまざまな人がいます。どんな相手にもフラットに対応し、医療職の視点と企業人の視点の両方から最適なアプローチを考えられる人が、産業保健師として長く活躍できます。
パソコンスキルと休職者へのサポート力
次に求められるのは、パソコンスキルと休職者対応の力です。産業保健師の業務では、WordやExcel、PowerPointを使った文書作成・データ管理・会議資料の作成など、パソコン業務が日常的に発生します。
最初から得意でなくても問題ありません。日々の業務の中で自然とスキルは身につき、ビジネスメールの書き方やデータの整理方法も徐々に慣れていきます。むしろ、正確で丁寧な書類管理や、わかりやすい資料づくりに取り組む姿勢が評価される傾向にあります。
また、休職中の職員へのサポートも重要な業務の一つです。心身の不調や家庭の事情など、休職の背景はさまざまですが、相手の状況を丁寧に理解し、復職に向けた支援や関係部署との調整を行う必要があります。
このとき、相手を責めずに寄り添う姿勢が信頼を生みます。「職員の人生に伴走する気持ち」で接することが、産業保健師としての専門性にもつながります。
チャレンジ精神と行動力
産業保健師の仕事には、日々の面談や事務処理だけでなく、セミナーや健康イベントの企画・運営など、企画力や発信力が求められる場面もあります。そのため、周囲と協力しながら新しい取り組みを形にしていくことを楽しめる人が向いています。
また、健康教育や安全衛生研修などで人前で話す機会も多く、最初は緊張しても経験を重ねるうちに自然と慣れていきます。完璧である必要はなく、「やってみよう」という前向きなチャレンジ精神こそが成長の原動力です。
産業保健師は、医療知識を社会全体に広げる「架け橋」のような存在です。現場で感じた課題を改善提案につなげたり、従業員が笑顔で働ける環境をつくったりする過程にこそ、大きなやりがいがあります。
向いている人の特徴をまとめ
産業保健師として活躍できる人には、次のような共通点があります。
- 相手の立場を尊重し、柔らかい言葉で伝えられる人
- 医療知識だけでなく、社会的な視点でも考えられる人
- チームで協力しながら仕事を進めるのが得意な人
- 変化に柔軟で、新しい取り組みに前向きに挑戦できる人
- 正確で丁寧な事務処理ができる人
産業保健師は、看護師経験を活かしながら「人の健康を守る＋働く環境を整える」という二つの軸で活躍できる仕事です。臨床現場とは異なるやりがいを感じたい方に、ぴったりのキャリアといえるでしょう。
まとめ
今回は、「産業保健師の1日の流れとやりがい」について紹介しました。日々のスケジュールや具体的な仕事内容を通して、産業保健師がどのような環境で、どんな目的を持って働いているのかがイメージしやすくなったのではないでしょうか。
また、実際の体験談を読むことで、職員との関わり方や産業医との連携、そして「人の健康と働き方を支える」というやりがいを感じ取っていただけたと思います。
産業保健師は、同じ医療職でありながら、病院やクリニックとはまったく異なる視点で人を支える仕事です。企業というフィールドで看護師経験を活かすことで、自身のキャリアにも新しい広がりが生まれます。
「これまでと違う形で、人の健康を支えてみたい」と感じた方は、ぜひ一度、産業保健師の求人情報をチェックしてみてください。あなたの新しい一歩が、より豊かな働き方につながるかもしれません。
