血液を体外に循環させる透析治療は、高度な医療機器と正確な判断が求められる分野であり、未経験のうちは戸惑うことも多くあります。
しかし、その一方で、患者と長期間にわたって関わり、生活全体を支える看護を行えるやりがいの深い現場でもあります。
以下では、透析室で働く看護師の仕事内容や1日の流れ、必要な知識とスキル、そして透析看護ならではのやりがいについて、現場経験をもとに説明していきます。透析室に興味がある方、あるいはこれから挑戦しようとしている方が、実際の現場をより具体的にイメージできるよう、体験談も交えながら紹介します。
目次
透析看護とは?透析室で働く看護師の特徴

透析看護は、慢性腎不全などで腎臓の機能が低下した患者に対し、人工的に血液を浄化し生命を支える医療を行う分野です。透析室は常に機械音が響き、病棟や外来とは異なる緊張感があります。週に数回通院する患者が多く、長期的に関わることが多いのが特徴です。単に治療を補助するのではなく、生活全体を支える看護が求められます。
透析医療の基本的な仕組み
透析には「血液透析(HD)」と「腹膜透析(PD)」の2種類があります。
透析室で多く行われる血液透析では、人工腎臓(ダイアライザー)を用いて体外循環した血液から老廃物と余分な水分を除去し、きれいになった血液を体に戻します。腹膜透析は腹膜を利用する在宅療法であり、患者自身が主体的に行うケースもあります。
血液透析は週3回、1回4~5時間行われることが多く、患者の体調変化に迅速に対応する力が必要です。特に血圧低下、痙攣、嘔気などが起こることもあるため、看護師は観察力と判断力を常に研ぎ澄ませています。
看護師の体験事例
手順通りに落ち着いて動けたことで、患者が安堵の表情を見せてくれた瞬間、「透析看護は観察と判断の積み重ねだ」と強く実感しました。
透析室で看護師が担う主な業務範囲
透析看護師の仕事は「透析前」「透析中」「透析後」で明確に分かれます。
透析前は体重測定、バイタルチェック、穿刺部位の観察などを行い、治療に適した状態であるかを確認します。透析中は血圧や脈拍をこまめに測定し、患者の表情や訴えから体調の変化を見極めます。長時間の治療になるため、看護師の声かけや会話が患者の安心につながります。
透析後は抜針・止血・記録を行い、体調が安定していることを確認して治療が終了します。
看護師の体験事例
医師・臨床工学技士とのチーム連携の実際
透析室では、医師・臨床工学技士・看護師が緊密に連携しながら治療を進めます。
医師は透析条件や処方を決定し、臨床工学技士は透析装置の管理・保守を担当します。看護師は患者の体調変化を最前線で把握し、両者をつなぐ役割を担います。患者の訴えを迅速に共有し、判断を仰ぐことで、安全で効率的な透析治療が実現します。
チームで動く透析室では、スタッフ同士の信頼関係が非常に重要です。毎回同じメンバーが関わることで、患者のわずかな変化にも気づけるようになり、治療の質が向上します。
看護師の体験事例
透析看護師の仕事内容と1日のスケジュール

透析看護師の1日は、他の部署に比べて時間の流れが非常に正確で、分単位で動くことが求められます。
透析治療は週3回、1回あたり4〜5時間におよぶ長時間の医療行為であり、患者の安全を守るためには、事前準備から終了後のフォローまで一貫した管理が欠かせません。ここでは、透析室での看護師の主な業務内容と、1日のスケジュールの流れを詳しく見ていきます。
透析前の準備業務(機器チェック・バイタル測定・穿刺準備)
透析前は、1日の中でも最も集中力が必要とされる時間帯です。
朝の出勤後、まず透析装置や水質管理装置の点検を行い、治療に使用する機械が安全に稼働できる状態かを確認します。ダイアライザーや回路のセッティング、必要な薬剤の準備を行い、患者ごとの透析条件(除水量や透析時間など)をカルテでチェックします。
次に、患者の体重測定・血圧・脈拍などのバイタルサインを測定し、前回透析からの体重増加量を確認します。体重変化は除水量の設定に関わるため、非常に重要です。その後、穿刺部位(シャント)の観察を行い、異常(発赤・腫脹・雑音の変化など)がないかをチェックします。
透析を開始する際には、シャントに穿刺を行い、血液を透析装置へ流すための回路を確実に接続します。穿刺は技術と経験を要するため、新人看護師は先輩の指導のもとで慎重に行います。
看護師の体験事例
透析中の観察・合併症への対応・患者とのコミュニケーション
透析が始まると、長時間にわたる観察とケアが続きます。
治療中は、患者の血圧や脈拍、体温などのバイタルサインを定期的に測定し、血液の流れや除水の状態をモニターで確認します。患者の顔色や表情の変化にも注意を払い、少しでも異変があればすぐに対応します。
特に注意すべきは、血圧低下・痙攣・吐き気などの急変です。これらは透析中に起こりやすく、状況に応じて除水速度を変更したり、補液を行ったりする必要があります。こうしたトラブル対応は、経験を積むことで冷静に判断できるようになります。
また、透析中の時間は患者とのコミュニケーションの機会でもあります。週3回、同じ患者と顔を合わせることで信頼関係が深まり、体調や生活習慣の変化にも気づきやすくなります。看護師の声かけが、治療への安心感を生むことも多いです。
看護師の体験事例
透析後の後片付け・記録・申し送り
透析終了後は、抜針・止血を行い、穿刺部位の出血が止まっているかを丁寧に確認します。その後、再度体重測定を行い、除水が適切に行われたかを評価します。透析後は体調が急変しやすいため、倦怠感や血圧の変化などを細かく観察し、異常があればすぐに医師へ報告します。
後片付けでは使用済みの回路やダイアライザーを廃棄・洗浄し、機器のメンテナンスや次回の準備を行います。また、患者の状態・透析中の変化・実施内容をカルテに詳細に記録し、次の勤務者へ正確に申し送ることも大切な業務です。透析はチームで継続的に行う医療のため、情報共有の質が治療の安全性を左右します。
1日の流れ(午前・午後シフトのスケジュール例)
透析室の勤務は午前・午後の2部制が一般的で、時間ごとの動きが明確に決まっています。以下は一例です。
| 時間帯 | 主な業務 |
|---|---|
| 7:30 | 【午前シフト】 出勤・透析装置の点検・水質確認 |
| 8:00〜9:00 | 透析準備・ダイアライザーのセット・穿刺開始 |
| 9:00〜13:00 | 透析中の観察・バイタル測定・合併症対応 |
| 13:00〜14:00 | 抜針・止血・記録・申し送り |
| 13:00 | 【午後シフト】 出勤・装置点検・準備 |
| 14:00〜19:00 | 透析観察・トラブル対応 |
| 19:00〜19:30 | 抜針・清掃・申し送り |
このように透析室は、治療スケジュールが厳密に管理され、時間ごとに業務が進行します。定刻で動くことにより、治療の安全性と効率が確保されます。
透析看護師に必要な知識とスキル

透析室で働く看護師は、医療技術の理解と患者の生活支援の両立を求められます。透析は単なる機械操作ではなく、患者の生命を維持する治療であり、その背景には深い知識と経験が欠かせません。ここでは、透析看護を実践するうえで特に重要となる知識とスキルを整理します。
血液透析(HD)と腹膜透析(PD)の基礎理解
透析医療を理解する第一歩は、看護師として血液透析(HD)と腹膜透析(PD)の違いを正しく把握することです。
血液透析(HD) は、患者の血液を体外に取り出し、人工腎臓(ダイアライザー)で老廃物や水分を除去して体に戻す方法です。日本の透析患者の9割以上がこの方法を受けています。透析室での業務は主にこの血液透析が中心です。
一方、腹膜透析(PD) は、自身の腹膜を利用して体内で浄化を行う方法です。患者自身が自宅で行うケースが多く、自己管理能力が必要となります。
透析看護師はこの2つの治療法を理解し、血液透析中に起こり得る合併症(血圧低下、痙攣、空気混入など)や、腹膜透析で注意すべき感染管理についても正確に把握しておくことが求められます。
看護師の体験事例
図を使いながら丁寧に説明すると「分かりやすい」と言われ、その日から「専門知識を相手の言葉で伝える」ことを常に意識するようになりました。
シャント管理と穿刺技術の重要ポイント
透析看護師の技術の中で、特に重要なのがシャント管理と穿刺です。シャントとは、血液透析で血液を取り出すために動脈と静脈をつないだ通路のことを指します。患者にとって命綱ともいえる部位であり、穿刺は看護師にとって最も緊張する業務の一つです。
穿刺前には、スリル音(スリル)や触感で血流の状態を確認し、発赤や閉塞の兆候がないかをチェックします。針を刺す位置や角度は患者の血管走行によって異なるため、経験を重ねて感覚を身につけていく必要があります。また、止血の際も強く圧迫しすぎるとシャント閉塞を招く恐れがあるため、適度な圧力で行うことが大切です。
さらに、患者への指導も重要な業務です。シャント側の腕で血圧を測らない、重い荷物を持たない、清潔を保つなど、自己管理のポイントをわかりやすく伝えることで、長期的なトラブルを防ぐことができます。
看護師の体験事例
看護師としての急変対応・観察力・判断力
透析中は、わずかな変化が命に関わる可能性があります。特に血圧低下や意識障害、痙攣などはよくあるトラブルです。そのため、透析看護師には「異変をいち早く察知し、的確に対応する力」が求められます。
観察力を高めるには、モニターの数値だけでなく、患者の表情・声のトーン・姿勢・皮膚の色調など「いつもと違う」サインを拾うことが重要です。経験を重ねることで、小さな変化から次の展開を予測できるようになります。判断力を磨くには、トラブル対応を記録・振り返りし、先輩や医師とのケースディスカッションを積極的に行うことが効果的です。
急変時には、冷静な判断とチーム連携が不可欠です。医師への報告・MEとの連携・補液の準備など、複数の行動を同時進行で行うスキルが身につくと、対応に余裕が生まれます。
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患者との信頼関係を築くためのコミュニケーション技術
透析室では、患者と長期的に関わることが多く、治療だけでなく精神的サポートの要素も大きいです。
週に3回、数年間にわたり顔を合わせるため、患者の生活や性格まで深く理解することが求められます。信頼関係が築かれると、体調の変化や悩みを話してもらいやすくなり、結果として看護の質が向上します。
コミュニケーションの基本は「傾聴」と「共感」です。患者が不安を抱いているときに否定せず受け止め、治療の意図や目的を分かりやすく説明することが、安心感につながります。また、同じ患者でも日によって体調や気分が異なるため、表情や口調から心理的変化を読み取る力も大切です。
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透析看護師のやりがいと感じる難しさ

透析看護は、命を支える医療の最前線であると同時に、患者と長く寄り添うケアの現場でもあります。以下では、透析看護師が感じるやりがいと難しさの両面を見ていきます。
長期的に関わる患者との信頼関係の深さ
透析治療は、週3回、1回あたり4〜5時間を長年にわたって続ける患者が多く、看護師と患者の関係は非常に密接になります。
通院回数が多いため、患者の体調変化や生活の様子を日常的に観察できるのが透析看護の大きな特徴です。治療の合間に交わす小さな会話から、患者の不安や悩みを感じ取り、生活指導や心理的サポートにつなげることもあります。
長期的に関わることで、患者の信頼を得られる瞬間は何よりも嬉しく感じます。体調の変化をいち早く察知して対応できたときや、患者から「あなたが担当で良かった」と言われたとき、看護師としての使命を実感します。
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命を支える医療技術に携わる誇り
透析看護師は、血液を扱う専門性の高い医療技術を担う職種です。
透析中の患者は常に命の危険と隣り合わせであり、看護師の判断一つで安全性が左右されることもあります。正確な穿刺技術や機器管理、合併症対応など、どれも小さなミスが許されない緊張感がありますが、その分、治療が無事に終わったときの看護師としての達成感は大きいものです。
また、透析室では医師や臨床工学技士と連携しながら一人の患者を支えます。チームの一員として命を守る責任を分担することで、専門職としての誇りとやりがいを強く感じる場面が多くあります。
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看護師としての精神的・身体的な負担
透析室の勤務は、1回の治療時間が長く、患者一人ひとりの状態を継続的に観察するため集中力を維持する必要があります。
穿刺やモニタリングなどの繰り返しで手や腰を痛めることもあり、身体的な疲労は避けられません。また、同じ患者と長期間関わることで、病状の悪化や最期を見届けるつらさを経験することもあります。
これらの負担を乗り越えるためには、職場全体で支え合う雰囲気が欠かせません。休憩中の情報共有や、ミーティングでの意見交換が、気持ちの整理や技術的な学びにつながることも多いです。
感情労働と向き合うためのセルフケア
透析看護は、患者の身体だけでなく、感情にも寄り添う仕事です。
長期的な関係の中で信頼を築く一方、感情の揺れを受け止め続けることは、看護師自身の心の負担にもなります。ときには患者から厳しい言葉をかけられることもあり、気持ちを切り替えるのが難しい日もあります。
そのようなときこそ、意識的にセルフケアを行うことが大切です。仕事とプライベートの境界を明確にし、趣味や休息を取り入れて心身のバランスを保ちます。
看護師の体験事例
まとめ
透析室で働く看護師は、医療技術の正確さと患者への深い理解の両方を求められる、専門性の高い職種です。
血液透析の機械操作やシャント管理、合併症対応などの知識に加え、長期間関わる患者との信頼関係を築く力も欠かせません。透析治療は日常の延長にある医療であり、看護師の存在が患者の生活の質に直結します。
一方で、透析看護には身体的な疲労や感情的な負担も伴います。命を支える重責を感じながらも、チームで支え合い、学びを重ねることで自信とやりがいが生まれます。現場で成長を感じられる瞬間こそが、透析看護師としての誇りを実感できるときです。
これから透析室で働こうと考えている方や、未経験から挑戦したい方にとって、大切なのは「焦らず、基本を丁寧に積み重ねること」です。安全意識と患者への思いやりを忘れず、自分らしい看護を積み重ねていくことが、透析看護師として長く活躍するための最良の道だと感じます。