訪問入浴は、自宅での入浴が難しい高齢者や障がいのある方に対し、浴槽や給湯機を持ち込み、入浴をサポートする在宅ケアのひとつです。
以下では、訪問入浴で働く看護師の仕事内容から「きつい」と言われる理由、そして実際に働いて感じたメリット・デメリット、やりがいまでを、私自身の体験を交えて詳しく紹介していきます。
目次
訪問入浴で働く看護師の仕事内容

訪問入浴において、看護師が行う主な仕事内容について、私の体験もお伝えしながら説明していきます。
訪問入浴での準備:入浴物品の搬入と設置
訪問入浴では、浴槽やお湯を運ぶ機材を専用の入浴車で利用者の自宅まで搬入します。
訪問入浴サービスでは、自宅の浴槽を使うのではなく、持参した浴槽を室内に設置して入浴介助を行うのが特徴です。
基本的には、看護師1名と介護職員2名の3名体制で訪問し、介護職員が中心となって浴槽やホース、給湯機などを設置します。看護師は安全な動線の確保や室温調整、転倒防止など、環境面からサポートすることが仕事です。
利用者が安心して入浴できるよう、チーム全員で協力しながら準備を進めることが大切です。
看護師の体験事例
自宅の環境はそれぞれ異なり、お庭を通ってリビングまでスムーズに運べることもあれば、浴槽がぎりぎり通るほどの玄関を通過しなければならないこともありました。基本的には介護職員2名が中心となって運んでくれましたが、同行している看護師として何もしないのも気が引けたため、私も持てそうな物を手伝うようにしていました。
訪問入浴前の重要業務:看護師による体調確認とアセスメント
訪問先に到着したら、看護師は利用者の体温・血圧・脈拍・SpO₂(経皮的動脈血酸素飽和度)などを測定し、全身状態を確認します。
これにより、発熱や体調不良、血圧の異常などを早期に察知することができます。もし異常が見られた場合は、無理に入浴を行わず、清拭に切り替えたり、次回に延期したりする判断も看護師として必要です。
こうした入浴の可否判断を担うのは看護師の仕事であり、安全かつ安心な入浴を提供するうえで欠かせない重要なステップとなります。
看護師の体験事例
聴診器もありましたが、呼吸状態に変化があるなど、異常が疑われるときのみ使用していました。
私が測定している周囲では、介護職員が浴槽を組み立てたり、お湯をホースで流したりしており、現場はかなりにぎやかな雰囲気です。血圧計が水銀式だったら脈拍が聞き取りにくかったと思うので、自動式で助かりました。初回の利用者の場合は、前回の看護記録も確認しながら、入浴の可否を慎重に判断しました。
入浴介助中の観察:安全と安心を守る看護師の仕事
入浴中、看護師は利用者の体調を細かく観察しながら、介護職員による入浴介助をサポートします。顔色や呼吸、意識の変化を逐一確認し、異常が見られた場合にはすぐに中止し、適切に対応できるよう常に注意を払います。
また、皮膚の発赤や褥瘡の有無なども観察し、必要に応じて処置や記録を行います。入浴は利用者にとって心身ともにリラックスできる時間でもあるため、安心して過ごせるよう声かけを行い、室温やお湯の温度など環境を整えることも看護師の大切な仕事です。
看護師の体験事例
本来であれば、利用者にゆっくりお風呂を楽しんでもらえるよう、看護師としても雰囲気づくりを意識したいところでしたが、次の訪問先の時間を考えるとそうもいかず……。限られた時間の中で「スピード」と「丁寧さ」をどう両立させるか、改めて難しさを感じました。
入浴後の処置とケア:観察力と記録が求められる重要な工程
利用者の入浴後は、体をしっかり拭いて保温しながら、皮膚の状態を丁寧に観察することが看護師の仕事です。
必要に応じて軟膏の塗布や創部の処置、褥瘡の確認などを行い、利用者が清潔で快適な状態でケアを終えることが大切です。看護師は観察した内容や実施した処置は必ず記録に残し、次回訪問する看護師や関係職員が状況を正確に把握できるようにします。
訪問入浴では担当が変わることも多いため、記録と引き継ぎの正確さが特に重要です。看護師として小さな変化にも気づける観察力と、利用者に安心を与える丁寧な対応が、訪問入浴で働く看護師に求められます。
看護師の体験事例
また、介護職員がすぐそばで手順やタイミングをアドバイスしてくれたことで、落ち着いて対応することができました。訪問入浴はチームで協力しながら利用者に最適なケアを提供できたときは、大きな達成感を感じました。
訪問入浴看護師の1日のスケジュールと勤務の流れ
訪問入浴の看護師は、限られた時間の中で複数の利用者宅を巡回し、入浴介助や体調確認を行います。
以下は、私が実際に経験した「訪問入浴看護師の1日の流れ」を紹介します。
| 時間帯 | 業務内容 |
|---|---|
| 出勤 | 事業所に到着後、制服に着替え、髪型や身だしなみを整えます。 その日の訪問予定を確認し、利用者のカルテを見ながら情報を収集します。 血圧計など必要な物品を準備し、入浴車に乗り込みます。 |
| 午前の訪問入浴 | 同行する介護職員が運転を担当し、午前中に2〜3件のお宅を訪問します。 入浴準備から撤収まで、1件あたりおよそ1時間を目安に行います。 看護師は体調確認や入浴可否の判断、処置を担当します。 |
| 休憩 | 休憩時間はおおむね1時間ですが、午前の業務が長引くと短くなることもあります。 巡回ルートや交通状況によって休憩場所は異なり、コンビニ駐車場で車内昼食を取る場合や、時間に余裕があれば飲食店に立ち寄ることもあります。 |
| 午後の訪問入浴 | 午後も午前と同様に2〜3件のお宅を訪問します。 すべての訪問が終わったら事務所に戻り、看護記録の記入漏れがないかを確認します。 必要に応じて、同行した介護職員と共有事項を伝達します。 |
| 退勤 | 使用した血圧計などの物品を整理・片付け、身支度を整えたら業務終了です。 1日を通して複数の利用者と関わるため、体力と集中力の両立が求められます。 |
訪問入浴の看護師が「きつい」と言われる理由

訪問入浴を体験した看護師の多くは、さまざまな理由から「きつい」と感じることが少なくありません。ここでは、私が訪問入浴サービスを看護師として行った際に感じたことを含めて、その理由を説明していきます。
体力的にハードな業務が多い
訪問入浴では、車で運んだ機材を利用者の自宅まで搬入し、浴槽や給湯機、ホースなどを設置します。基本的には介護職員が中心となって行いますが、看護師も安全に作業できるよう環境を整えたり、軽作業を手伝ったりする場面があります。
浴槽の移動やお湯の準備、片付けなど、想像以上に体を使う作業が多く、狭い室内では姿勢を保つのもひと苦労です。こうした積み重ねが、大きな体力的負担につながります。
看護師の体験事例
責任の重さと常に続く緊張感
訪問入浴では、入浴の可否を最終的に判断する責任が看護師にあります。看護師として利用者の体調を見極め、少しでも危険があれば入浴を中止する決断も必要です。 一見穏やかな時間に見える入浴も、実際には血圧の変動や意識の変化など急変のリスクを伴います。
そのため看護師は常に利用者の状態を観察し、異常があれば即座に対応できるよう備えておかなければなりません。 こうした緊張感の連続が、「きつい」と感じる理由の一つです。
看護師の体験事例
時間との戦い:正確さとスピードの両立が難しい
1日に複数の利用者宅を巡回するため、常に時間との戦いになります。初めて行う処置でも、ゆっくり記録を確認しながら進める余裕がない場合があります。
次の訪問時間を意識しながら看護師は、利用者の体調の把握やアセスメント、処置を正確に行う必要があり、「正確さ」と「スピード」の両立が求められます。限られた時間の中で安全かつ丁寧なケアを提供し続けることが、大きなプレッシャーとなります。 この時間的な制約も、「きつい」と言われる理由の一つです。
看護師の体験事例
休憩時間も気が抜けない:仕事モードが続く勤務環境
訪問入浴の仕事では、決まった休憩時間や場所がなく、その日の訪問件数や移動距離によって状況が変わります。
昼休憩も車内でとることが多く、看護師は介護職員2名と同じ空間で過ごすため、一人でリラックスする時間を確保するのは難しいのが現実です。 次の訪問準備や記録を確認しながら簡単に食事を済ませることもあり、「休憩しているようで休憩にならない」と感じる看護師も少なくありません。
こうした不規則な勤務環境も、「きつい」と言われる理由の一つです。
看護師の体験事例
多方面への気配り:人間関係と連携力が求められる仕事
訪問入浴では、利用者本人だけでなく、その家族や介護職員との関係づくりも重要です。看護師は利用者の体調や生活背景、同居家族の思いに配慮しながら、安心感を与える丁寧な対応を行う必要があります。
介護職員との連携をスムーズに行うためには、限られた時間の中で役割分担や声かけのタイミングを調整し、チーム全体で動くことが求められます。こうした多方面への気配りが多い仕事であるため、看護技術だけでなくコミュニケーション力も問われます。
看護師としての人間関係への気遣いが大きい点も、「きつい」と感じる理由の一つです。
看護師の体験事例
私が感じた訪問入浴で働く看護師のメリット・デメリット

私は病棟勤務の傍ら、訪問入浴の仕事を経験しました。ここでは、実際に働いてみて私が感じた訪問入浴の看護師としてのメリットとデメリットをまとめます。
観察力と判断力が自然と磨かれる
訪問入浴では、看護師が一人で利用者の体調を見極め、入浴の可否を判断します。限られた時間と環境の中で、血圧や表情、皮膚の状態などから体調を読み取る観察力と判断力が求められます。 医療処置の機会は少ないものの、こうした積み重ねが臨床感覚を養う機会となり、看護師としてのスキル維持にもつながります。
自分の判断がそのまま安全や安心に直結するため、責任感とやりがいを強く感じられる仕事だと実感しました。
利用者からの「ありがとう」が直接届く
訪問入浴の魅力のひとつは、看護師として利用者との距離が非常に近く、感謝の言葉を直接受け取れることです。
入浴は利用者にとって楽しみの時間であり、「ありがとう」「気持ちよかった」といった言葉や、入浴後のさっぱりとした笑顔に触れるたびに、この仕事をしていてよかったと感じました。
清潔を保つだけでなく、心までリフレッシュしてもらえることが訪問入浴の醍醐味であり、定期的に訪問する中で信頼関係が深まっていくことが大きな励みになります。
ライフスタイルに合わせて柔軟に働ける
訪問入浴の仕事は、スケジュールの自由度が高く、自分の生活リズムに合わせて働きやすいのが特徴です。
訪問件数や時間があらかじめ決まっているため、短時間勤務や曜日固定といった働き方がしやすく、家庭や子育てとの両立にも向いています。 私も、ダブルワークとして働く中で、夜勤や急な残業がない点に大きな安心感を覚えました。生活リズムを整えながら、無理なく続けられる働き方だと思います。
体力勝負の仕事で、慣れるまではハード
訪問入浴の現場は、想像以上に体力を使う仕事です。
浴槽や機材の搬入・設置は介護職員が中心に行いますが、看護師も準備や片付けを手伝うため、立ちっぱなしや中腰の姿勢が続きます。
夏は浴槽の熱気で汗だくになり、冬は寒さの中で搬入・撤収を行うこともあります。私も慣れるまでは体力的に厳しく感じ、仕事終わりには全身の疲労を強く実感しました。
看護スキルを発揮する場面が限られる
訪問入浴では、医療処置を行う機会が少ないため、看護技術を発揮する場面は限定的です。
業務の中心は、入浴前後のバイタルチェックや皮膚の観察、入浴可否の判断であり、看護師として採血・点滴・吸引などを行うことはほとんどありません。 病院勤務のように技術を磨く機会が少ないため、ブランク明けや再就職後のスキル維持にはやや物足りなさを感じるかもしれません。
私自身も、看護技術を使う機会の少なさに最初は戸惑いました。
チームワークと人間関係に気を遣う
訪問入浴は、看護師と介護職員2名の3人1組で訪問するため、チームワークが非常に重要です。
限られた時間の中で効率よく動くには、声かけや動きのタイミング、互いへの配慮が欠かせません。
私はできるだけ良い関係を築くよう心がけ、移動中や休憩中も雰囲気を見ながらコミュニケーションを取っていました。幸い良いメンバーに恵まれましたが、もし相性が合わない場合はストレスにつながることもあると思います。 人間関係を大切にできる姿勢が、この仕事を続けるうえで大切だと感じました。
訪問入浴のやりがいと魅力・体験談

私自身も病棟勤務と並行して訪問入浴を経験し、その中で「体力的に大変でも続けたい」と思える多くのやりがいを感じました。 以下では、私が実際に感じた訪問入浴のやりがいと魅力を紹介します。
清潔を守ることで利用者の健康と笑顔を支えられる
訪問入浴の看護師として働く中で最もやりがいを感じたのは、利用者の清潔保持を通じて健康を支えられることです。 肌を清潔に保つことは感染予防や褥瘡防止につながり、傷の回復にも良い影響を与えます。
入浴後にガーゼを交換したり軟膏を塗布したりといった処置を通じて、利用者が快適に過ごせるように整えるたびに、看護師としての使命を実感しました。 また、清潔ケアによって利用者の表情が和らぎ、「ありがとう」「気持ちよかった」と言葉をかけてもらえる瞬間は、この仕事ならではの喜びです。
入浴で利用者の心と体の変化を実感できる
訪問入浴は、単に身体を清潔にするだけでなく、心身のリフレッシュを促す時間でもあります。入浴後に血色が良くなったり、表情が明るくなったりする姿を見るたびに、「看護の力で生活を支えている」と感じます。
実際に、入浴後に食欲が出て食事量が増えた方や、夜ぐっすり眠れるようになった方もいました。入浴が利用者の生きる力を取り戻すきっかけになることを、現場で何度も目にしてきました。
その瞬間こそが、私にとって訪問入浴で働く一番のやりがいです。
チームで協力して一人を支える達成感がある
訪問入浴は、看護師1名と介護職員2名の3人で1チームを組み、限られた時間の中で安全に入浴を提供します。
機材の搬入から体調確認、入浴介助、処置まで、すべてが連携で成り立つ仕事です。介護職員との息がぴったり合い、予定通り安全に入浴を終えられたときの達成感は格別でした。 チームで一人の利用者を支えられたという実感が、訪問入浴で働く醍醐味だと思います。
清潔ケアの本質を改めて学べる
病棟勤務では重症患者の清潔ケアを担うことが多く、常に慎重さと緊張感が伴っていました。
一方で、訪問入浴では利用者と直接会話をしながらケアを行えるため、「清潔ケアは心を通わせる看護の原点だ」と感じました。
入浴後に見せてくれる笑顔や「またお願いね」という言葉に、清潔ケアの本来の意味を改めて実感します。 身体だけでなく、心まで清められるような時間を提供できることが、訪問入浴で働く看護師としての大きなやりがいです。
まとめ
訪問入浴の看護師は、入浴という日常の中に“医療の目”を持ち込み、利用者の清潔と安心を支える大切な役割を担っています。看護師1名と介護職員2名でチームを組み、入浴前の体調確認から入浴介助、処置、記録までを一貫して行う仕事は、体力も集中力も求められます。確かに「きつい」と感じる瞬間は少なくありません。
しかしその一方で、入浴後に見せてくれる利用者の笑顔や「ありがとう」という言葉には、他の職場では得られない喜びがあります。入浴を通して清潔を守り、心と体の両面を癒やす――その瞬間に、看護師としての本質的なやりがいを実感します。
私自身、訪問入浴の仕事を通して「観察力・判断力・チームワークの大切さ」を改めて学びました。病院や施設とは違う環境で、在宅で暮らす人々の生活を支える訪問入浴の仕事は、決して楽ではありませんが、確実に成長と充実感をもたらしてくれる現場です。
もしあなたが「看護師として、もう一歩違う形で人の生活を支えたい」と考えているなら、訪問入浴という選択肢を一度検討してみてください。きっとその経験が、看護師としての視野を大きく広げてくれるはずです。