看護師として働いていたけれど、退職したあとの生活や再就職への不安を感じている方は多いのではないでしょうか。そんなとき、頼りになるのが国の制度である「失業給付(失業保険・失業手当)」です。しかし、「看護師でも受け取れるの?」「パートや派遣でも対象になる?」「手続きが複雑そう…」といった疑問を抱えて、制度をきちんと活用できていない方も少なくありません。
以下では、厚生労働省の公的情報に基づき、看護師が受け取れる失業給付(失業保険・失業手当)について、制度の基本から雇用形態ごとの違い、ハローワークでの手続きの流れ、そしてよくある質問までをわかりやすく丁寧に説明していきます。
2025年(令和7年)4月からの制度改正にも対応済みなので、最新の情報としてご活用ください。
目次
失業給付(失業保険・失業手当)とは?
以下では、失業給付(失業保険・失業手当)は制度の概要と対象条件について、看護師向けにわかりやすく解説します。
制度の基本と雇用保険による保障制度
失業給付(失業保険・失業手当)は、厚生労働省が所管する「雇用保険制度」の仕組みです。働いていた看護師が、なんらかの理由で職を失ったとき、次の仕事が見つかるまでの間に最低限の生活費を保障し、安心して求職活動を続けられるように支援するための制度です。
雇用保険は、「保険」ですので、「基本的には事前に雇用保険の保険料を納めていた看護師(=被保険者)が給付の対象」となります。
つまり、離職前に雇用保険に加入していたことが前提です。
看護師として正社員・パート・派遣などで働いていた場合、週20時間以上の勤務があれば雇用保険に加入していた可能性が高く、失業給付の受給対象になります。
この雇用保険制度は「生活の安定」と「再就職の促進」の2つの柱から成り立っており、失業中も積極的に求職活動を行うことが前提となるため注意しましょう。
看護師が失業給付の対象者となる条件とは?
失業給付(失業保険・失業手当)を受けるためには、以下3条件をすべて満たす必要があります。
| 被保険者期間 | 離職前2年間で雇用保険に加入していた期間が、一般離職(自己都合等)は6か月以上、倒産・解雇等の場合は12か月以上必要 |
|---|---|
| 失業状態 | 「働く意思・能力があり、かつ積極的に求職活動をしているにもかかわらず職がない状態」であること |
| 認定手続き | 離職後、ハローワークで求職申し込み、7日間の待機期間を経た後、原則4週間ごとに失業状態であることの認定を受ける必要があります。 |
以下で詳しく説明していきます。
雇用保険の被保険者期間
原則として、離職前の2年間に「通算して12ヶ月以上」、雇用保険に加入していた期間が必要です。ただし、自己都合退職の場合は6ヶ月以上が必要とされています(1ヶ月=11日以上勤務した月がカウント対象)。
失業の状態であること
「失業状態」とは、就職する意思と能力があり、積極的に求職活動をしているにもかかわらず、職に就けていない状態を指します。たとえば「休養したいから退職した」「家庭の事情で仕事を探していない」などのケースでは、「失業状態」とはみなされず、給付対象外となります。
ハローワークでの求職登録と認定手続き
退職後は、まず最寄りのハローワークに出向いて「求職の申し込み」を行う必要があります。
その後7日間の待機期間を経て、原則4週間ごとの「失業認定日」に失業状態が継続しているかを確認されます。この認定を受けなければ給付は行われません。
失業給付(失業保険・失業手当)条件!雇用形態別の違い
看護師であっても雇用保険の加入条件を満たしていれば、正社員・パート・派遣を問わず失業給付(失業保険・失業手当)の対象となります。
ただし、以下のように看護師の場合、雇用形態や勤務時間により被保険者資格の該当・不該当に差が出ます。
| 正社員 | 週20時間以上の勤務が一般的で、雇用保険加入条件を満たすため、失業給付の対象になります。 |
|---|---|
| パート | 週20時間以上勤務し、かつ31日以上継続勤務の見込みがあれば被保険者として認定されます。 |
| 派遣 | 一定の条件を満たしていれば、派遣看護師でも失業給付を受け取ることが可能です。 |
| 業務委託等・フリーランス | 2022年7月より、「事業開始等による受給期間延長の特例」から失業給付をうけとることが可能。 |
以下で各雇用形態について詳しく説明していきます。
正社員の看護師の失業給付(失業保険・失業手当)条件
一般的な常勤看護師(病院や施設など)は、週30~40時間程度の勤務であり、雇用保険の加入対象者となっています。そのため、離職すれば原則的に失業給付の対象になります。ただし、勤続年数や離職理由に応じて受給期間が変動する点には注意が必要です。
パート・アルバイトの看護師の失業給付(失業保険・失業手当)条件
パート・アルバイトの看護師として勤務の方でも、以下の条件を満たしていれば雇用保険に加入できます。
- 週所定労働時間が20時間以上
- 31日以上の雇用見込みがある
この条件をクリアしていれば、短時間パート看護師でも失業給付の対象になります。ただし、週20時間未満の短時間パートや、雇用期間が極端に短いケースでは加入できていない場合もあるため、離職票の有無で確認が必要です。
派遣看護師の失業給付(失業保険・失業手当)条件
「派遣看護師」という働き方は、病院に雇われているのではなく、派遣会社(派遣元)との契約で成り立っています。そのため、雇用保険や離職票の発行も、派遣元が行います。例えば、登録だけで1日も働いていない場合は、雇用契約が成立していない可能性があるため、失業給付の対象外になります。
しかし、以下のような一定の条件を満たしていれば、派遣看護師でも失業給付(基本手当)を受け取ることが可能です。
| 雇用形態 | 派遣会社(派遣元)との雇用契約があること。 労働者として雇用され、離職票や雇用保険加入手続きは派遣元が担います。 |
|---|---|
| 雇用保険加入要件 | ① 1週間の所定労働時間が20時間以上であること、 ② 31日以上引き続き雇用される見込みがあること。 この両方を満たせば、雇用保険の被保険者となります。 |
| 被保険者期間 | 【自己都合退職】離職前2年間に6か月以上(1か月=11日以上勤務) 【会社都合退職】離職前2年間に12か月以上。または「契約満了等」による特定受給資格者なら、6か月でも可。{index=2} |
| 離職理由 | ・契約期間満了/派遣先都合/倒産など → 会社都合退職→ 給付制限なし ・自己都合退職 →待機期間7日+2〜3か月の給付制限 ・病気や育児など正当理由があれば「特定理由離職者」として制限免除も対象。 |
| 失業状態の要件 | 就職する意思・就業能力があり、かつ積極的に求職活動を行っているにもかかわらず、就業していない状態。 この状態でハローワークの失業認定を受ける必要があります。 |
| 手続き(ハローワーク) | ① 派遣元から離職票を受け取る ② ハローワークで求職申込を行う ③ 7日間の待機期間後、原則4週ごとに失業認定を受ける これらの手続きを踏めば、受給資格が得られ、給付が継続されます。 |
参照:雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!(厚生労働省)
以上のように、派遣看護師でも、雇用契約と雇用保険加入の要件を満たし、正しい理由で離職し、認定を受ければ、失業給付の対象になります。「離職票が出ない」「加入期間が短い」など心配な点がある場合は、早めに派遣元やハローワークへ相談しましょう。
業務委託・フリーランス看護師の失業給付(失業保険・失業手当)条件
業務委託やフリーランスでも、2022年7月より「事業開始等による受給期間延長の特例」を利用して、以下の条件で失業給付をうけとることが可能になっています。
| 事業開始 | 離職日の翌日以降に、事業を開始した方や、事業に専念した方、もしくは事業の準備に専念し始めた方 |
|---|---|
| 申請日 | 事業を開始した日(もしくは事業に専念した日、事業準備に専念し始めた日)の翌日から2か月以内に申請をした方 |
| 雇用保険 | 雇用保険の被保険者だった方で、退職後に個人事業(業務委託・フリーランス)を開始し、廃業して再就職する方 |
つまり、以前(業務委託やフリーランス看護師として働く前)に正職員等の「雇用保険の対象の雇用形態」で働いており、その後、業務委託やフリーランス看護師として活動し、2ヶ月以内で辞めてしまった(廃業する)看護師の方で、再就職を希望する場合に失業給付(失業保険・失業手当)を受け取ることができます。
詳しくは「離職後に事業を開始等した方は 雇用保険受給期間の特例を申請できます(厚生労働省)」を確認しておきましょう。
看護師が失業給付(失業保険・失業手当)を受けるための手続きの流れ
看護師としての仕事を退職した後、「失業給付(失業保険・失業手当)」を受けるには、ハローワークで所定の手続きを踏む必要があります。
給付には明確な条件と申請フローが定められており、「手続きが遅れて給付が受け取れなかった」というトラブルも少なくありません。以下では、ハローワークでの申請から実際に失業給付(失業保険・失業手当)を受け取るまでの流れを、看護師向けにわかりやすく説明していきます。
①離職票の受け取り
退職した病院や施設などの勤務先から「離職票(離職票-1・離職票-2)」が届くのを待ちます。
これが失業給付(失業保険・失業手当)の申請に必要不可欠な書類です。通常は退職から1〜2週間以内に郵送されますが、看護師が勤務していた事業所によっては遅れる場合もあります。
もし2週間以上経っても届かない場合は、勤務先や管轄の(最寄りの)ハローワークに問い合わせましょう。
②ハローワークで「求職の申し込み」と「受給資格の決定」
あなた(看護師)が離職票を受け取ったら、次に最寄りのハローワークに出向きます。ここで行うのが、「求職の申し込み」と「受給資格の決定」です。
提出が必要な書類は以下の通りです。
- 離職票(1と2)
- 本人確認書類(マイナンバーカードや運転免許証など)
- 写真(縦3cm×横2.5cm程度、2枚)
- 印鑑
- 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード(口座情報がわかるもの)
この手続きを通じて、「この人(看護師)は働く意思と能力があり、現時点では就職していない」という条件が満たされていると認められた場合、「受給資格決定」が行われます。
③雇用保険説明会への参加
受給資格決定後、およそ1週間以内に「雇用保険説明会」の日時が通知されます。
この説明会では、失業給付(失業保険・失業手当)の制度や今後のスケジュール、注意点についての案内があります。多くのハローワークではこの日に「雇用保険受給者証」と「失業認定申告書」が配布されます。
この説明会は、実質的に「初回認定日」ともなっており、出席しなければ給付開始が遅れる可能性があるため注意が必要です。
④待機期間と給付制限
「受給資格の決定」後、7日間の待機期間が設けられています。この間に看護師として就職活動をしても、原則として失業給付(失業保険・失業手当)は発生しません。また、看護師が「自己都合で退職した場合」「会社都合・雇止めで退職した場合」によって、給付制限期間が設けられています。
この給付制限期間は、「退職理由(自己都合退職)などで失業給付の支給が一定期間遅れる期間」のことです。
退職理由によって、以下の給付制限があります。
| 自己都合退職 (教育訓練の受講なし) |
給付制限期間:約1ヶ月 (給付開始の目安:約1.5か月後~) |
|---|---|
| 自己都合退職 (教育訓練の受講あり※2) |
給付制限期間:なし (給付開始の目安:約8日後~) |
| 会社都合・雇止め(※1) | 給付制限期間:なし (給付開始の目安:約8日後~)< |
※2:教育訓練とは、再就職やスキルアップのために、厚生労働省が認めた講座を受ける制度のことです。医療事務・介護福祉士・看護学校進学などが対象で、ハローワーク経由で申請できます。看護師がこの「教育訓練」を受講していれば、自己都合で退職した場合でも、給付制限(通常は1か月)がなくなり、待機期間(7日間)終了後すぐに失業給付が受け取れるようになります。
※2:令和7年度4月1日から、自己都合退職者であっても、自ら教育訓練等を受けた場合には給付制限が解除されます。(詳しくは「令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について(厚生労働省)」を参照してください。)
※3:会社都合・雇止めで実際に退職した場合、「離職票-1・離職票-2」の退職理由に「会社都合・雇止め」が明記されている必要があります。実際に会社都合・雇止めで退職したにも関わらず、自己都合退職となっている場合もあるため、注意が必要です。
参照:特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要(ハローワークインターネットサービス)
⑤4週間ごとの「失業認定」と給付の振込
失業給付(失業保険・失業手当)は、自動的に毎月支払われるものではなく、4週間に1回、ハローワークで「失業認定」を受けることが必要です。
失業認定で確認される内容は以下の通りです。
- 期間中に就職していないか
- 正当な求職活動を行っているか(例:求人への応募、面接、ハローワークでの相談など)
失業認定が通ると、原則として約5営業日以内に指定口座に給付金が振り込まれます。
具体的な就職活動の例
具体的な看護師の就職活動の例は、以下のような内容が該当します。
- 求人への応募
- 合同企業説明会への参加
- ハローワークが実施する説明会やセミナーへの参加
- ハローワークが再就職に役立つと判断した資格の受験
注意点として、友人・知人の紹介や、転職エージェント(看護師求人サイト)への登録(※登録のみ)は活動実績として認定されないため、注意してください。
⑥再就職したらすぐ報告を
看護師として、又はその他の再就職が決まった場合は、速やかにハローワークに報告することが大切です。
失業給付(失業保険・失業手当)はもちろん受け取れなくなりますが、再就職手当などの支給対象になる場合もあり、正しく申告することで損を防ぐことができます。
看護師の失業給付(失業保険・失業手当)に関するQ&A
上記でご説明した内容を踏まえ、ここからは看護師の方が知っておきたい「失業給付(失業保険・失業手当)」に関するよくあるQ&Aを、わかりやすく丁寧に解説していきます。
Q1. 看護師でも失業給付(失業保険・失業手当)はもらえるの?
A1. はい、看護師でも条件を満たせば、しっかり給付されます。
主な条件は以下の通りです。
- 雇用保険加入:原則、退職前2年で通算12ヶ月以上(会社都合・雇止めなら1年で6ヶ月以上)
- 「失業状態」であること:再就職の意思・能力があり、就職活動しているにも関わらず無職であること
看護師も有効求人が多い職種ですが、条件を満たせば安心して失業給付を受給できます。
参照:Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~(厚生労働省)
Q2. 看護師でも求職活動の実績として認められる?
A2. はい。看護師としての活動でも実績になります。
- 転職サイトやハローワーク経由で応募
- 職業相談・就職セミナー受講
- 看護系の講座や説明会に参加
特にオンラインセミナーなどは自宅から参加でき、実績として扱われることが多いです。
Q3. 失業給付期間中に看護師のアルバイトはできる?
A3. はい、ハローワーク等に報告すれば可能です。
- 待機期間(7日間)はアルバイト禁止(違反すると待期延長)
- 待機後なら、週20時間未満の軽いアルバイトは可
- 4時間以上勤務した日は、その日の基本手当が翌日以降に繰り延べられます
Q4. 自己都合退職+教育訓練受講のメリットは?
A4. 給付制限がなくなり、待機期間後すぐに受給開始できます。
- 通常:自己都合退職は待機7日+給付制限1ヶ月
- 教育訓練(厚労省指定)を受けていれば、制限なし=待機後すぐに給付開始
看護師が資格取得やキャリアアップ講座を受講することで、受給開始が早まります。
Q5. 教育訓練中に失業給付と支援給付金は併給できるの?
A5. はい、一定の条件下で併給可能です。
- 失業給付(基本手当)と教育訓練給付金は併用可
- 「教育訓練支援給付金」(基本手当日額の60~80%相当)は、失業給付終了後に受給されます
※訓練修了が必須、申請期限に注意が必要です。
参照:専門実践教育訓練の「教育訓練給付金」のご案内(厚生労働省)
Q6. 看護師の失業給付はいくら・どれくらいもらえる?
A6. 離職前の給与の約5~8割、受給期間は90~330日です。
- 基本手当日額=(直近6ヶ月給与÷180)×給付率(45–80%)、年齢別の上限あり
- 例:20代後半看護師 年収400万円程度で月約18万円程度支給
- 受給期間は、自己都合で90–150日、会社都合で最大330日
Q7. 離職票が届かないときはどうすれば?
A7. 退職から2週間以上届かない場合は要確認です。
- まず退職先の人事・総務へ問い合わせ
- ダメなら、最寄りのハローワーク窓口へ相談してください
Q8. 早期就職ならもらえる手当ってある?
A8. はい、「再就職手当」「定着手当」があります。
- 再就職手当:給付残日数の3分の1以上を残して就職した場合に支給
- 定着手当:再就職後6ヶ月以上継続勤務した方に支給
ハローワーク紹介でなくても、看護師転職サイト経由でも対象になります。
まとめ
失業給付(失業保険・失業手当)は、看護師として働いていた方にも適用される心強い制度です。正職員・パート看護師・派遣看護師・フリーランス看護師など、働き方に応じた条件はありますが、制度の仕組みや手続きを正しく理解していれば、経済的な不安を大きく軽減することができます。
また、自己都合退職であっても「教育訓練」を活用すれば、給付制限を受けずに早期の受給が可能になるなど、制度の柔軟性も高まっています。
退職後の再出発を安心して迎えるためにも、まずは自身の状況が制度の条件に当てはまっているかを確認し、ハローワークでの手続きをしっかりと進めていきましょう。